健康ファミリー 2002年3月号掲載

●遺伝子研究が花盛り! 

 テレビでにやたら登場するのがいわゆる「大食い競争」番組です。制限時間内でどれ だけの量を食べるか競争するわけですが、彼ら彼女らの消化器構造の遺伝子が、ひょっ としたら牛や豚と大差がないのではないか、と以前にも筆者は書いたことがあります。 それを裏付けるような研究が発表されました。

 ヒトとチンパンジーのゲノム(全遺伝子情報)の違いは1.23%しかないことが わかったのです。研究したのは理化学研究所ゲノム科学総合研究センターらのチーム で、世界で初めての成果です。(各紙)チンパンジーのゲノムを約7万7000個 (朝日)に切り分けてヒトゲノムの配列と比較すると98.77%が一致していたと いうものです。人同士での個人差は約0.1%とされますから、チンパンジーとヒト とは、人同士に比べて約12倍の違いがあり、また、どの部分が1.23%の違いか 興味を引くところです。

 こうした遺伝子研究は、ある種単純作業のくり返しでありながら、脚光を注びるの は時代の流れです。

 米国での遺伝子研究から「不老長寿のカギを握っているのは“粗食”かもしれない」 (朝日新聞01年12月7日)と報道されました。それによると、DNAに書き込ま れた遺伝子はスイッチがオンの状態になって働く場合と、オフの状態で休んでいる場 合がある、と想定してマウスの実験をしたのです。

 マウスは人間なら18歳に相当する「青年マウス」と70歳にあたる「高齢マウス」 の肝臓の細胞から、約1万1千種類の遺伝子について比べたのです。その中である種 の遺伝子の動きは、青年期には休んでいて、高齢期に働き出すという場合があります。 例えば、高齢になって関節炎や血管障害などのDNA複製能力が低下することでもわかります。

 マウスに与えるエサと寿命の関連を次のように伝えます。
「マウスはふつう1週間に95`カロリー前後のエサで飼う。ところが、人間なら9 0歳にあたる『超高齢マウス』に2週間は80`カロリー、次の2週間は53`カロ リーと計4週間、『粗食』を与えたら、19種類の遺伝子の発現状況が若返った。  生後まもなく95`カロリーで育てると寿命は最長42〜43ヵ月だが、カロリー を半分にしたら60ヵ月程度まで長生きすることもわかった」と。

 つまり、カロリーオーバーは寿命を縮め、カロリー制限をすると寿命を延ばすこと ができるというのです。その量は「好きなだけ食べさせた場合の7割にとどめるのが いい」と報告しています。
「腹8分に医者いらず」とは、古くから言い伝えられてきたことです。健康長寿を達 成している読者諸賢からは、「今さらマウスの実験でもあるまい」との声が聞こえて きそうですが、生活習慣病を防ぐ食事は「腹7分」、さらにガンを予防するには「腹 6分」というのが今や常識になりつつあります。

●8億の飢餓人口を救う!

 NPO法人日本綜合医学会(東京・港区)の会長甲田光雄医博は、「肉食半減で8 億の飢えた人々を救おう」と訴えています。昨年の12月の朝日新聞では「絵で見る ニュース・世界の食糧不足」を掲載しています。その中で

「富の偏在で8億人超が飢 えに苦しんでいる」と外報部の武石英史郎氏が報告しています。 
 その中で、世界の穀物生産は実は十分にあるにもかかわらず、牛や豚など飼育する ために使われる穀物が膨大な量になる、といいます。つまり家畜を1`太らすために 牛なら8`、豚4`、鶏2`の飼料が必要になっているため、飢えた人々へ食糧が回 らないのです。甲田医博は、「世界の人々、とりわけ先進国の人々が、現在消費して いる肉量を半分に減らすと、それに従って牛の飼料のトーモロコシや小麦もそれだけ 減るのは当然。いま世界で生産されるトーモロコシの量は約6億dで、そのうちの4 億dが牛などの飼料に使われていて、牛肉半減のキャンペーンが成功すれば、約2億 dが節約でき、飢えた8億人の人々に食糧として配給できる」と訴えています。

 前出朝日の報道によれば「世界の飢餓状況は、栄養不足人口が5%未満の日本、欧 州、北米など一部を除けば、残りのほとんどは、何らかの飢餓問題を抱えている。− −−世界の穀物生産は18億7千万d。年間必要量の倍以上もある。膨大な穀物を食 べる家畜の餌として大量に消費されている」といいます。

 いっぽう「食べ残し量も、米国では4360万d、日本では家庭ごみ900万d、 スーパー・コンビニで700万dもあり、日本の家庭が1年間に捨てている食べ残し の量はアフガンの人々が食べる穀物の3年分の重さと同じになる計算だ」と武石氏は 報告しています。
『ファーストフードが世界を食いつくす』(エリック・シュローサー著・草思社刊) の著者が毎日新聞のインタビューに次のように答えています。「例えば米マクドナル ドは米国内の牛肉、じゃがいもの最大購入者。鶏肉でも第2位。『世界で同じ味』を 目指す経営方式が食の工業化を招いている。巨大チェーンの『食の支配』の危険性を 知ってほしかった」と述べています。日本のマクドナルド社も同様な経営方式です。 平日65円ハンバーガーをばらまき、売り上げ至上主義が達成できたと見るや、値上 げの方向を示しています。

 こうした肉類加工食品の食べる量を、世界中で半減できたら8億の飢餓の人々が救 えると同時に、半減した人自身が、肥満や心臓疾患の不安が解消され、いわゆる生活 習慣病の予防につながるのです。

 人同士の遺伝子の個人差の約0.1%の違いの中に、美食・飽食に走るDNAと、 自然界の摂理に慣って生きる賢いDNAの差が感じられます。


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